雨情さんは、あこがれの人、時代の人、乃木大将に会えることになりました。乃木大将の家の書生に、応接間まで通されると、雨情さんは椅子に座って、ワクワクして落ち着かない様子で、乃木大将を待ちます。
余談になりますが、乃木さんは、明治天皇を追慕されて殉死された日(御大葬の日)の朝、写真屋さんを呼んで、玄関とこの応接間で、奥さんの静子さんと写真を撮っておられます。その時の乃木さんは、新聞を読んでいる姿で写っておられます。静子さんは、巫女さんのような姿で、小さな暖炉の脇に慎まやかに立って写っておられます。お二人は、この写真をお撮りになられた後、宮中に参内されたのであります。そして、その夜、御霊轜宮城御発引の時刻である午後八時に、お二人は自刃されたのであります。
さてさて、話を戻しまして、雨情さんが、乃木邸の応接間に通されたところから、続きを再現してみましょう!
暫らく待っていると、次第に雨情さんの気持ちは落ち着いてきた。雨情さんは、応接間をゆっくりと見回した。調度品も高価なものには見えなく、絵も飾っていない。これがあの乃木大将の御邸宅かと思うほど、極めて質素な雰囲気が漂っていた。静謐な空気が、流れていた。
どれ程の時間が流れたのであろうか?屋敷の奥から、人の気配がした。あの書生の誰かに話しかける声が近づいてきた。そして、当然、応接間の扉が開いた。
「やあ、君か!用件も無いのに、わしに会いに来たというのは」
軍服姿の乃木大将が部屋に入って来られた。
「わっ、わたくすは、野口雨情であります、でやんす」
思わず、雨情さんは立ち上がり、背筋を伸ばし直立不動の姿勢で、答えたのであります。まるで兵隊さんのように。
この続きは、次回に!
投稿者 tuesday : 2007年04月30日 |