古賀政男から美空ひばりまで昭和歌謡の名曲を慰問演奏。音楽ボランティアグループ“おもひでチューズデー”


































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童謡、民謡、そして昭和歌謡への流れ(78) 啄木さん曰く、「日本はロシアの文明に勝ったのか!」

啄木さんは、梅茶漬けを箸で口の中に入れながら美味しそうに啜り終えると、口元を絞って梅干しの種を空になった茶碗に吹くように出しました。梅干しの種が空の茶碗にカランと当たる心地よい音がしました。そして、啄木さんは、大きく溜息をついて、茶碗をちゃぶ台に置いて言いました。
「雨情さん、美味しいですね」
「美味いでしょ!わすは、故郷茨城の梅干しで食べるお茶漬けが一番好きでやんす。啄木さん、もう一杯、いかがですが?」
「いやぁ、ありがとうございます。おかわりをお願いできますか?」
雨情さんは啄木さんが差し出す茶碗を受け取ると、お櫃の蓋を開けて、ご飯を盛り、手に付いたご飯粒を口に入れてからお櫃の蓋をして、温かいご飯の入った茶碗を啄木さんに渡しました。そして、梅干しの入った壺を啄木さんに差し出しました。
「お好ぎな梅干しを取って、ご飯のうえに載せてぐださい」
「いやぁ、こりゃ、どうも」
啄木さんは、どれどれといった感じで、壺の中を覗きながら、箸で慎重に一つ一つ梅干しをご飯の上に載せました。
「いいでやんすか?」
「・・・・・」
「どうしたでやんすか?」
「すみません、もう一つ、いただけますか?」
「(えっ?)いいでやんすよ」
「ありがとうごいます」
啄木さんは、3つ目の梅干しをご飯の上にゆっくりと置くと、急須を取って、湯をかけました。
「最高ですね」
「そうでやんす」
啄木さんは、早速、茶碗と箸を取って、啜り始めました。雨情さんは、美味しそうに梅干し茶漬けを啜っている啄木さんの満足そうな顔を眺めながら尋ねました。
「啄木さん、小説『雲は天才である』は完成したでやんすか?」
茶漬けを啜っている啄木さんは、不意の質問に驚いて、啜るのを中断して、雨情さんの顔を見ました。
「未完成のままです・・・・」
「そうでやんすか」
「はい。私は、その小説を書き進めるのと同時に、『盛岡中学校校友会雑誌』に教育評論といいますか、ちょっとした評論文を書いていました。渋民村の静かな林の中で書いた文ということで『林中書』という題を付けました。そっ、それが、それが・・・・・」
啄木さんの声が急に途切れてしまいました。茶漬けの入った茶碗が震えています。啄木さんの眼には、また涙が溜まって、今にもこぼれ落ちそうでした。雨情さんは、何も言わず、じっと啄木さんを見つめていました。
しばらくして、啄木さんが一気に茶漬けを掻き込み始めました。
雨情さんは、呆気に取られて、ただただ眺めていました。
啄木さんが掻き込み終わり、茶碗をちゃぶ台に乱暴に置くと、啄木さんの大粒の涙が、頬を伝って流れポタポタと落ちました。
「その『林中書』は、日本文明に対する積極的な批判文です。この明治という時代の教育界に投げた爆裂弾なのです!」
啄木さんは、そう言うと、体を震わせながら、苦しそうな呻き声を発して泣き出しました。雨情さんは、泣きじゃくる啄木さんを、ただただ眺めているばかりです。
「ぐぐぐっ、にっ、日本は、にっ、日清、日露の戦争で、かっ、勝ちはしましたが、ほっ、ほーんとうに一等国になったのでありましょうか?・・・・ぐぐぐっ、わっ、私は、日本はロシアの文明に勝ったとは、どう考えても思えないのであります。明治になって、三十数年の明治の教育の成果によって、日本がロシアの文明に勝ったという人たちがいますが、私は、そっ、そうは思いません。ろっ、ロシアの兵隊に、勝ったに過ぎないのです。ぐぐぐっ、いっ、戦(いくさ)は、しょ、所詮『野獣的な力の競争』です!うっ、雨情さん、そっ、そう思いませんか?・・・・ぐぐぐっ」
雨情さんは、黙って啄木さんの方を見て、何度も何度も頷いていました。


この続きは、次回に!



投稿者 tuesday : 2007年11月04日


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