古賀政男から美空ひばりまで昭和歌謡の名曲を慰問演奏。音楽ボランティアグループ“おもひでチューズデー”


































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童謡、民謡、そして昭和歌謡への流れ(79) 啄木さん、一家離散、故郷の渋民村を去る!

啄木さんは、腕を目に押し当て、声を出して泣き続けています。雨情さんは、啄木さんの泣く姿を見て、梅干し茶漬けに手を付けることができずにいました。啄木さんの泣く声が、しばらく雨情さんの下宿部屋に響いていました。
しばらくして、啄木さんは、泣き疲れたのか、顔にあった腕を下ろし、大きく息を吸い込みました。すると、鼻水が長い糸を作りながらぽたりと彼の膝の上に落ちました。
「あっ、失礼」
啄木さんは、慌てて、袖で膝の上を拭き取り、そして鼻を拭きました。雨情さんは、啄木さんの鼻水でぐっしょり濡れた袖を見ながら、話しかけました。
「啄木さんは、教育にすべての力を注いでいた訳でやんすね」
「ええ、そうでした。私は、願わくは、日本一の代用教員なって死にたいと思っておりました。今の日本の教育はミイラ化しております。そのミイラに命を吹き込むには、小学校から吹き込むのが一番なのであります」
「へぇー、啄木さんは、そごまで教育に燃えでいだでやんすか?それで、どうなっだでやんすか?」
雨情さんの質問に答えようとした啄木さんは、口を開きかけた瞬間、眼に涙が溢れ出してしまい、また腕を顔に押し当てて、おいおいと泣き出しました。
雨情さんは、余計なことを言ってしまったかと、うろたえながら、啄木さんの肩に手をやり、脊中にかけてさすっていました。
「私の教育刷新の意見は、渋民村には受け入れてもらえなかった・・・・。私は、それが不満で、不満で、啄木塾の生徒と一緒に、ストライキを決行したのであります」
「そっ、それは、小説と同じでやんすね。ジャコビン党でやんすね」
「はい」
啄木さんは、歯を食いしばったかのような声で返事をして、顔から腕を下ろしました。啄木さんの顔には、粘々とした鼻水が目のあたりから口元に付着していました。
「奇麗な女教師の応援も得て、私は力が入っていました」
「えっ、奇麗な女教師?でやんすか?女性がいると力が入るでやんすね」
雨情さんは、啄木さんの粘々顔を見ながら、啄木さんの話を聞き続けました。
「秀子さん、さめ子さん、という方です。優しい女でした。よく相談に乗ってもらいました。でも彼女たちには迷惑は掛けられませんでした。村長や校長、そして首席訓導から厳しいことを言われ、結局のところ、私は、私は、免職となってしまったのです・・・・。ぐぐぐっ」
啄木さんは、また鼻水で濡れた袖を顔に付けて、おいおいと泣き出しました。
雨情さんは、啄木さんの背中をさすりながら、啄木さんから伝わる悲しみの体温を感じていました。
「父の住職復帰もままならず、父は何処かへ家出してしまい、私は妹の光子を連れて北海道へ、母は渋民村の親戚筋へ、妻子は盛岡の実家へと、石川家は一家離散してふるさとを去ってしまったのです・・・・。ぐぐぐっ」
雨情さんは、啄木さんの肩から手を離し、梅干しの入った壺に手を遣り、梅干しを指で一つ抓んで、啄木さんの粘々顔の前に差し出しました。啄木さんは、差し出された梅干しを見るとキョトンとしていました。
「美味しいでやんすよ」
雨情さんにそう言われると、雨情さんの指から梅干しを受け取ると口に入れました。
啄木さんは、眼をジッと瞑って、梅干しの酸っぱい味を堪えているかのようでした。あくまでも推測ですが、啄木さんの脳裏に「梅干しの 味は悲しみ 超ゆるかな」という歌が浮かんだかもしれませんな。



投稿者 tuesday : 2007年11月11日


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