古賀政男から美空ひばりまで昭和歌謡の名曲を慰問演奏。音楽ボランティアグループ“おもひでチューズデー”


































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童謡、民謡、そして昭和歌謡への流れ(81) 啄木さんの函館生活、小説「漂泊」を書いた頃


雨情さんと啄木さんは、ようやく朝御飯を終え、雨情さんは啄木さんのお茶碗もお盆に載せ片付け始めました。
啄木さんは、「ご馳走様でした」と両手を合わせています。
雨情さんは、女中にお茶碗を取りに来させるために、四つん這いになって部屋の入口まで進むと障子を少しだけ開けて首だけ出して
「お~い、女中さんや、食べたでやんす!終わったでやんすよ~っ!」
と呼びますが、返事がありません。
「お~い、ご馳走様でやんす!お~い」と言って、四つん這いのまま、後退りして自分の座蒲団に戻り、
「仕方ないでやんす。ちょっと運んで来るでやんす」
と言って、勝手場に行ってしまいました。


啄木さんは、雨情さんの座蒲団の横に置かれた煙草入れと灰皿を引きよせ、煙草を1本取り出して、口に銜え、マッチで火を点け、大きく息を吸いました。指で挟んだ煙草を口から離し、腕組みをすると、天井を顔を向けて、口を窄めながら大変満足そうにゆっくりと煙を吹くように吐きました。勢いよく吐かれた煙は、天井の近くで広がり、ゆったりと漂っていました。啄木さんは、その煙の様を見ながら、にやりと微笑んでいました。そして、指に挟んだ煙草に眼を移し、澄ましたように立ち上る紫煙の糸を見つめながら、次第にこれから一仕事をするんだというような面持ちになっていくのでした。


「いやいや、あの女中っこは、耳が遠いんでやんすかね」
雨情さんは独り言のように呟きながら、部屋に戻ってきました。そして、人の煙草を無断で失敬して、ゆっくり煙草を燻らしている啄木さんを見て、
「ありゃまぁ」
と声を出してしまいました。
すると、啄木さんは軽く会釈をして
「また、いただいております」
と澄ました顔で応えました。
「いやいや、いいんでやんすよ、いいんでやんすよ」
と雨情さんは言いながら、座蒲団に坐りました。


「啄木さん、函館での生活は、あの大火が無ければ、あなだにとって幸せに過ごせだんではねえですが?」
雨情さんは、啄木さんの膝元に置かれたままの煙草入れに手を伸ばして引き寄せると、煙草を取り出して、口に銜えました。啄木さんは、自分の吸っている煙草を差し出して、雨情さんに火を貸そうとしました。雨情さんは頭をぺこぺこ下げながら啄木さんの煙草を受け取って、自分の煙草に火を点け、啄木さんに返しました。これでは、どちらが客か分かりません。
「そうかもしれませんね。7月には母と妹が来て、親子三人で水入らずの生活を始めていましたからね。また小説も書き始めていました。『漂泊』という題の小説をね。歌会にも出ていました。あまりよい歌は詠めませんでしたが、それなりに充実していました」
そう言って、啄木さんが煙草をゆっくりと吸うと、煙草の先が赤く光りました。雨情さんは、その赤い火を見て、
「そうでやんすか。充実していたでやんすか」
と頷きながら、自分もゆっくりと煙草を吸いました。雨情さんの煙草も赤く光かり、話とともに二つの赤い火が交互に点滅していました。


この続きは、次回に!お楽しみに!



投稿者 tuesday : 2007年12月01日


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