古賀政男から美空ひばりまで昭和歌謡の名曲を慰問演奏。音楽ボランティアグループ“おもひでチューズデー”


































メンバーズブログTOPへ > morichan > 童謡、民謡、そして昭和歌謡への流れ(82) 啄木さんは叫ぶ、「函館の大火は快哉なり!」と


童謡、民謡、そして昭和歌謡への流れ(82) 啄木さんは叫ぶ、「函館の大火は快哉なり!」と

「大火というものは怖しいものであります。天を覆って太陽を仰ぐこともできませんでした」
啄木さんは、天井を見つめながら、感慨深く喋っています。
「ほう」
そう言って相槌を打っている雨情さんも天井を見つめています。天井には、二人の煙草の煙が漂っていました。


「狂える雲、狂える風、狂える火、狂える人、そう、巡査も狂っていました。すべてが狂っていました。狂える雲の上には、狂える神が下界の物音に浮き立って狂って踊っているようでした。凄まじい大火の夜の光景、私にははっきりと見えていたのですが、どんな言葉で表現したらよいのか分かりません・・・」
「ほう」
雨情さんは、そのような声で相槌を打つだけです。


「私は小高いところから、火事を見ていました。火は大洪水のように街を流れて行きます。火は夕立の雨のように、幾億万の赤い糸を束ねたように、街に住む人々の上に降り注ぎます。すべてが狂えるひとつの物音になってしまって・・・・・、私はいつしか手を叩いて叫んでいました・・・・・。快哉なり!と」
「ほう」


啄木さんは、さらに続けます。
「私が見た火は、幾万人の家を焼く残忍の火ではなく、悲壮極まる革命の旗を翻し、長さ一里の火の壁の土より函館を掩う真黒な手でした。私は、あの夜は実に愉快でした。いや、愉快という言葉も当て嵌まりませんでした」
「ほう」
雨情さんは、相変わらず、相槌を打っているだけです。


啄木さんは、徐々に力んできています。
「私はすべてを忘れて火の前に頭を地面に打ちつけ額ずこうとしました。家族の安危を心配する気は一つも起こりませんでした。幾万円も投じて作った大廈高楼が見ている間に倒れるのを見ても、少しも愛惜の情を起こすことなく、心であらん限り大声で快哉を絶叫しました」
「ほう」
雨情さんは、相変わらずです。


「私は、避難する人たちの手を引いて安全な処に連れて行ったりして、自宅に戻ったのは午前三時頃でした。家族は女たちだけだったので、近所の人たちが避難するのを見て狼狽するばかりでした。私は、愉快でたまらなく、盆踊りを踊る様な気分になっていました」
「ほう」
「雨情さん、盆踊りです」
「ほう」
「私が踊っているので、家族は笑っていました」
「ほう」
「近くの公園の後ろの松林の中に、家財を運んで避難することにしました。苦労して運んだのですが、明け方には、火の手は弱まり、自分たちの町には火は来ないことが分かり、安心しました」
「ほう」


もう、啄木さんは雨情さんの無表情な反応を気にしていませんでした。
「大火は函館にとって根本的な革命でありました。私は、そう思います。函館は千百の過去の罪業と共に焼き尽くして、今や新しい建設を要する新時代となりました。私は、むしろこれを持って函館のために祝盃をあげたいと思いました」
「ほう」
「実は、雨情さん、私はその大火の一週間前に、函館日々新聞の記者になっていたのです」
「ほう」
「・・・・くくくっ、私は、新聞社に、初めて書いた小説『面影』を置いていたのですが、・・・・それと
雑誌『紅苜蓿』第八号の原稿が・・・・、くくくっ、燃えてしまいました・・・・」


すると、雨情さんは突然、
「啄木さん、確が朝御飯を食べ始めた時『漂泊』が燃えたと言っだぺ?『描いた小説や詩は灰になってしまいました・・・。それはそれは残念です、残念至極であります・・・。苦心して書いたあの小説『漂泊』は自分にとってはなかなかの出来でした・・・・』と言っだっぺ?新聞社に置いてあった『面影』は燃えたけど、あんだの家は燃えなかったんでやんすね」
と少しきつい声で尋ねました。


啄木さんは、言われたことがしばらく何のことか分からず、
「はぁ?えっ?」
と言っていましたが、「あっ?」と声にならぬ声を出してドギマギしている様子でした。
「『漂泊』も詩も新聞社に置いであっだのですが?」
啄木さんの頬の涙は、乾いてしまったようでした。


この続きは、次回にお楽しみに!



投稿者 tuesday : 2007年12月10日


トラックバック


このエントリーのトラックバックURL:
http://www.kayou.org/cgi/mt/mt-tb.cgi/332

★【 熱意ブログランキング 】★12 NPO・ボランティア にほんブログ村 音楽ブログへ ブログランキング

BS blog Ranking  【ブログ探検隊】人気ランキング