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もりちゃんの推測でありますが、この日は、まず佐田さん、西村さんと金子さんの3人が啄木さんのところに来ていて、おそらく金子さんが、誰かに聴いた情報として、「雨情さんが進めている主筆排斥運動は、岩泉主筆を排斥した後に、雨情さんが高い給料の主筆の席を獲って、自分だけ甘い汁を吸おうとする陰謀らしい」という情報を齎したことによると思われます。啄木さん、佐田さん、西村さんは、おそらくこの情報を真に受けたのです。そういう話をしていたところに、雨情さんがひょこひょことやって来たのです。
「みなさん、どうがしたんでやんすか?」
雨情さんは、啄木さん、佐田さん、西村さん、金子さんの顔を見廻しました。
「いやいや、何でもありません」
啄木さんは、否定しながら、落ち着きのない感じで、ぎこちない笑みを浮かべていました。
「初号が発刊されだんで、いよいよ、作戦を開始すっぺ。啄木さん、よろしぐお願いしますよ」
雨情さんは、啄木さんたちが疑っていることを何も知らずに喋っています。
「岩泉の奴め、もう僅かのいのぢだ!」
啄木さん、佐田さん、西村さん、金子さんは、しばらく何も言わずに雨情さんの話を聴いていました。彼らの雨情さんを見つめる眼が鋭くなっているのに、雨情さんは気が付いていませんでした。
「いよいよだ!いよいよだ!力わせで頑張っぺ!それでは、わすは、かみさんがうっせえので、今夜は先に失礼させでいだだぎますでやんす。では、おやすみなせえ」
そう言うと、雨情さんは腰を丸めて低い姿勢で部屋を出て行きました。
襖が閉まった後、金子さんは、襖に耳を付けて、雨情さんが1階に下りて帰って行ったのを玄関の戸の閉まる音で確認すると、襖から離れ、部屋の中央にいる啄木さんたちに近寄って小声で訊きました。
「どう思います?怪しいでしょ?」
「うーん、そう言われてみれば、腑に落ちないような感じがする・・・」
啄木さんの言葉に、西村さんと佐田さんは大きく頷いていました。
翌17日の日記に啄木さんは、こう書いています。
<今朝も佐田西村二君に起こされぬ、
(中略)
夜八時迄社に居たり、佐田西村、金子野口の四名と談ず
《野口は愈々悪むべし》>
投稿者 tuesday : 2008年10月05日 |