雨情さんは、新聞社のみんなに囲まれる中で、啄木さんに罵倒され、土下座をして謝り、精神的にかなり落ち込んだに違いありません。この日から、雨情さんはお役差し止め謹慎中となったようであります。
「どうしで、こんなこどになっちまったんだっぺ?おらあ、みんなのごどを思って、動いたのに、誰かが疑ったりしで、おらを刺したのだ。石川君も、おらの気持を理解しでぐれず、他の者の言葉を信じっちまってっけ。石川君は、主筆がどんな奴か分かっていねえのが?若いからしゃあんめえが?ああ、悔しい・・・」
雨情さんは、頭を抱えて悔しがったにちがいないですな。雨情さんは、啄木さんが厳しく責めたように、自分だけ甘い汁を吸って、みんなのことを考えていなかったのでしょうか?雨情さんは、自分も含め、みんなが楽しく満足して仕事ができるような環境づくりが必要だと思っていたのではないのですかな?プライドと才能はあっても、苦労と貧乏が付いて回っている啄木さんも、役職が上がれば幸せになれるのにと、雨情さんは思っていたのではありますまいか?もりちゃんは、そう思います。
みんなが楽しく満足して仕事ができるような環境づくりのために、まずは自分と啄木さんたちとで、いい加減な男である岩泉江東主筆を排斥する計画を練って、徐々に仲間を作って行こうと、雨情さんは思っていたに違いない。ところが、「雨情は自分だけ甘い汁を吸おうと企んでいる」と思う奴が、啄木さんに仄めかして、話が変な方向に行ってしまったということではないですかな?
啄木さんは、22日の日記にこう書いています。
<三日が間はこれといふ為すこともなく過ぎぬ。社は暗闘のうちにあり、野口君は謹慎の状あらはる。この日は第二号編輯の日なり。主筆(は)事務の在原と大喧嘩を始め、職工長速水解雇さる。>
雨情さんが土下座をしてから四日後に、第二号の編輯業務において、在原さんという事務担当が、おそらく速水さんという職工長から頼まれて、岩泉主筆に業務運営の改善を申し入れたのでしょう。岩泉主筆は、在原さんの言うことを聞き入れず、在原さんと口論になり、「そもそも、そんなことを言っている奴は誰だ!俺は主筆だ!俺のやりたいようにやらしてもらう。文句を言っている奴は誰だ!そんな奴は、即刻首だ!」というようなことになり、職工長の速水さんが首になったということではないですかな?
いやはや、困ったものですな。職場というものは、組織のひとつでありまして、人間は昔から組織を作って歴史を作ってまいりましたが、どうも組織を作ってしまうと人間は性悪説になってしまいますな。フラットな組織であれば、まだいいのですが、役職のあるピラミッド型の組織ですと、上の人間は権力を得ますので、馬鹿な奴が上になると、それはそれは部下は悲惨であります。昔の日本陸軍がこれでありましたな。多くの若者が、馬鹿な上官のために尊い命を落としました。さらに、人間がひどいのは、馬鹿な上司であることをよく分かっていながら、胡麻擂りしながら、自分を引き上げてもらおうなんて考える輩がいるのでありますな。嘆かわしいことであります。
投稿者 tuesday : 2008年10月26日 |