古賀政男から美空ひばりまで昭和歌謡の名曲を慰問演奏。音楽ボランティアグループ“おもひでチューズデー”


































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童謡、民謡、そして昭和歌謡への流れ(120) お久し振り!雨情さん!ふたたび小樽にて

啄木さんは、小樽の駅に立っていました。すごく懐かしい気持ちで立っていました。家族を宮崎郁雨さんに任せることにしたことで、肩の荷が軽くなり、東京へ一人で行く気持ちが次第に晴れて清々しく感じられるようになっていた啄木さんは、数か月前までいた小樽の街を感慨深げに眺めていました。啄木さんの頬を冷たい春の風が心地よく当たって吹いています。


「あんりゃまぁ、啄木さんでねぇかぁ?」
何処かで聴いたその声の主を見ようと啄木さんは振り返りました。
「あっ!雨情さん!」
「こんなところで何をしてるべ?啄木さん、あんたは釧路にいるのでぇなかったかぁ?」
雨情さんは、干乾びた鼻水がこびり付いているようなマフラーを頭から巻くようにして、薄汚れた着物と袴姿で、啄木さんを覗き込むように話しかけてきました。
「いやあ、釧路は寒かったです。しばれるところです。布団の中で寝ていても、吐く息が布団の襟で凍って付くくらい寒い所でした。はっはっは!」
啄木さんは禿げた頭を掻きながら笑って、思わぬところで雨情さんに遭った驚きを隠せないでいました。
「へぇ~っ!釧路から戻ってきたでやんすか?」
雨情さんは煙草臭い息を吐きながら訊きました。
「そう、そうなんです。釧路は、息を吸うと鼻の中が凍ってしまうので、息をしたくなくなるんです。だから嫌になって帰ってきてしまいました。白石社長にはお世話になりましたけどね、はっはっは!」
啄木さんは、また禿げた頭を掻きながら笑い誤魔化しています。雨情さんは、啄木さんの禿げた頭を見ながら、
「そうでやんすか、そうでやんすか」
と言って、啄木さんに何かがあったのだと感じていました。
「あっ?私は、今から久し振りに家族の待つ家に帰るところです」
「そうでやんすか・・・・」
雨情さんは、久し振りに啄木さんと会えたので、懐かしさのあまり啄木さんにジワリジワリと近寄って離れませんでした。
「う、雨情さんは、お元気でしたか?」
「わすは、いつもどおんなじで、わすらしく生きているでやんす」
「そ、そうですか・・・」
「よぐよぐ久し振りなんで、今夜あだり、一杯どうだっぺ?と言っても、あまり啄木さんは飲めながったでやんしたね?」
「はっはっは!釧路でお酒を覚えましたよ!結構飲めるようになりましたよ!」
「そうでやんすか、そうでやんすか、では、一杯やっぺか?」
雨情さんは、ボサボサのちょび髭から唇を突き出してお猪口を傾ける真似をして言いました。
「そ、そうしましょう!」
「それでは楽しみにしでますよ、へっへへ」
啄木さんは、嬉しそうな雨情さんの顔を見ながら、思いがけなく雨情さんと飲むことになってしまい、半ば気が進まなかったのですが、
「それじゃあ、後で雨情さんのところに寄りますので、その時にゆっくりお話しましょう!」
と言って何度も会釈をして、
「じゃあ、後ほど・・・・」
と挨拶をして歩き掛け、その場を去ろうとしました。
「ああ、分かったでやんす。待っているでやんす」
雨情さんは軽く手を振って、人力車に乗る啄木さんを眺めていました。


この時、啄木さんは、雨情さんよりも自分が文学者として先を歩むことになるという優越感を感じていたのではないですかな?とにかく東京に行けることで、未来が開けるという期待を感じていたのでありましょう。あまりにも思いがけなく雨情さんと出くわし、飲むことになってしまったので、啄木さんは困惑していたと思われます。雨情さんを前にすると何処か心の中に「カッコよく東京行きの話をしてやろう」という気持ちがあるのを啄木さんは自分でよく分かっていました。それくらい、啄木さんは、数ケ月前の自分と、今の自分が違うのをよく分かっていたのでありました。


啄木さんは、そんなことを考えながら、人力車に乗って久し振りの小樽の街を眺めながら、家族の待つ家に向かったのであります。



投稿者 tuesday : 2010年02月28日


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