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童謡、民謡、そして昭和歌謡への流れ(130) 雨情さん、投獄される!

雨情さんは、誤報騒ぎの後、室蘭新聞社に入り、新聞記者の仕事と詩作とを両立し、充実した日々を送っていたのでありました。この頃に作った詩に「船中」という作品(『新天地』十月号掲載)があります。


船中


伏木行く船の中なり。
燻れる釣燈(とぼし)の影は
薄暗く四辺(あたり)を照らし
眠るあり、眠らざるあり。


竹行李に身を倚(もた)らせて
図らずも此方の隅に
疲れた眼を閉ざす
君に似し一人を見たり。


旅人に交れる君は。
惑はしきその俤(おもかげ)は
黒髪の房なす丈も
黒瑠璃の艶するあらね。


侮蔑(さげすみ)の眼を耀(かが)え
ジロジロとわれを見ながら
傍に連れ合いらしき
年頃の男も居たり。


五年(いつとせ)か六年(むとせ)のままに
幻は目に往き来して
陽炎の燃ゆるが如く
思はずもわが胸騒ぐ


『君か』ぞと熟々(よくよく)見れば
名も知らぬ旅人なれど
面ざしも、言葉遣ひも
君にこそ其儘似たれ。


故郷に残るは姉と
折々はわれにも言へき。
あゝ、君の姉かとわれは
幾度も打ち首(うな)づきぬ。


伏木行く船の中なり。
君に似し一人見たり。
水草の黄(きば)める岸に
明日かへるかと思へ。


これはどういう情景を詠ったのでありましょうか?妻子を磯原に帰し、室蘭で一人雨情さんは何を思ったのでありましょう。この詩の君とは、誰でありましょうや?雨情さんは、やはり男でありましたな。


この頃の室蘭は、大きな製鋼所が出来て、景気がよく、室蘭の街全体が湧き立っていたようであります。雨情さんは室蘭胆振日報の主筆となり、詩人でもあるという肩書であったから、室蘭でちょっとした文化人で知られていたようですな。当然、釧路にいた当時の啄木さんと同様、きっと呑めや唄えやのお遊びをして、地元の人との派手な交流もあったに違いありません。何せ、妻子を郷里に帰して単身で生活しておった訳ですから、賑やかな街で、ちやほやされて、楽しく遊んでいたと思われます。事実、雨情さんは室蘭美人と恋愛していたらしいのであります。


一方、仕事の方は、どうだったのでありましょうか?この頃の社会情勢は、日露戦争後、韓国併合による海外進出の気運と、国内でも資本主義の急激な発展による労働運動や社会主義運動が活発化していました。政府・官憲は、そのような運動に対して徹底した弾圧を行っていました。8月29日には無政府主義者大杉栄や堺利彦が、治安警察法違反等の罪で、重禁固および罰金の有罪判決を受けております。このような運動とジャーナリズムが繋がることを怖れた司法当局は、各地の新聞社に対して粛清に乗り出していました。そして、雨情さんのいた室蘭胆振日報社も警察の手入れが入りました。雨情さんは、何と逮捕されてしまったのであります。運が悪いと言ったらホントに悪いですなあ!


「ひでえだっぺ。わすは、なんでこんな目に合うのだっぺが?女と遊んでいた罰があだったんであっぺが?刑務所さ入らなぐぢゃなんねえなんて、ああ情けねえ。助けでほしいだっぺ」


杉山鏡史さんという雨情さんの部下が、次のような文を残しています。
「胆振日報社も、社債募集が原因となり、社長鷺谷治が恐喝で検挙されると、余波は編集部に及び、札幌の未決監送りとなった。むろん雨情も私もその中に混ざっていた。予審-公判と在監三ヶ月を経て、雨情も私も社長の命に従い記事を書いたり掲載したに過ぎず、事件加担の覚えなしと犯行否認したのに、検事は懲役二年を求刑したので、二人は青くなってしまった」


懲役二年の求刑?雨情さんは、絶対絶命の危機に直面したのであります。北の果ての監獄に二年も入る・・・。雨情さん、さぞかし堪(こた)えたでありましょう?そう、監獄と云えば、もりちゃんは、ある昭和歌謡を思い出しますな。


♪みんな~は悪い♪ ひとだと~いうが~♪
♪わたしにゃ~いつも~♪ いい人だった~♪
♪小っちゃな~青空~♪ 監獄の壁を~♪
♪あああ~♪ あああ~♪ みつめつつ♪泣いてる~♪あなた~♪


付き合っていた室蘭美人は雨情さんをこのように思ってくれたでしょうかねえ?これは二番なのでありますが、この曲は何という曲か、分かりますか?ハスキーボイスの妖艶な歌手松尾和子が唄いました「再会」(作詞:佐伯孝夫、作曲:吉田正、編曲:小沢直与志、ビクター、昭和35年)であります。松尾和子さんのような妖艶な大人の雰囲気の歌手は、もう現れないかもしれません。もりちゃんは、最近、彼女のCDをよく聴いているのでありますが、実によいですなあ!彼女は、ジャズシンガーで、フランク永井の薦めによって、吉田正を紹介され、ムード歌謡の基盤を築いた偉大な歌手でありまして、この方のスタンダードジャズは、ホントに実にうまく絶品であります!


おっと、話が逸れてしまいました。雨情さんは、どうなったのでありましょうか?監獄に入ったのでありましょうか?


杉山鏡史さんは、こう続けて書いています。
「しかし、判決は無罪宣告、二人は蘇生の思いで拘置監の門を出た」


「よかったですなあ!雨情さん!」
「へえ~、はあ~、よがったです。ホントによがったです。助かったでやんす」


雨情さんは、取り調べのために拘置所には三ヶ月間だけ入っていたとのことであります。



投稿者 tuesday : 2010年12月12日


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