愛人と二人での北の果てへの逃避行。連絡船で青森出帆の際に愛人に財布を取られ、失意のどん底の雨情さん、船の切符と僅かな金は持っていたのでありましょうな、雨情さんはひとり船に乗り、樺太に渡ります。当時は青森から直通で樺太までの船があったのですな。
いくら愛していても、いくら連れ添ってくれるように見えても、そして、美しく可愛くて抱いてやると、いつも身を委ねてきたのに、北の果てで金を持って逃げる女・・・・。
「そりゃないべ、殺生な!あまりにも情けないでやんす!」
さぞかし雨情さん、悔しかっただろうな。船から北の冷たい海を眺めながら、わびしさを噛み締めていたに違いない。憎い筈のあの女の温もりや香りが何故か懐かしい・・・・。嗚呼、悔しい。馬鹿野郎。雨情さんの気持ちは、そんな感じだったのではないでしょうか?
北の果てに向かう船に、男が一人、冷たい海を眺めながら、去っていった女を未練がましく思い出している。男を嘲笑うかのようにカモメが飛んでいる。船の汽笛が、冷たい風に乗ってわびしく聴こえる。まるで歌謡曲が流れてくるような情景ですな。
今日も夕日の 落ちゆくさきは
どこの国やら 果てさえ知れず
水の流れよ 浮寝の鳥よ
遠い故郷の 恋しき空よ
*野口雨情「旅人の唄」より
投稿者 tuesday : 2007年03月23日 |