雨情さんは、北の地の果て樺太の東海岸と西海岸、そしてロシアとの国境付近まで、歩き回った。樺太の秋の風は冷たく、心をわびしくさせた。ヴォズヴラシチェニエ(安別町:アモベツ)という町でシベリア大陸を遥か向こうに控えるオホーツクの西の海を眺めながら、雨情さんは何を思ったでしょう? 後年になって、雨情さんは、大正11年10月の「主婦之友」に「アモベツの浜」と題して、樺太アモベツ当時の思いを歌にして載せています。
故郷の常陸の国よ
あこがれのわが眼に映れ
妹の歳も忘れた
父母の歳も忘れた
「こんなに歩き回っても自分の心を満たすものはない、荒涼とした風景しかない、遠い故郷の北茨城の磯原の海が懐かしい、もう帰ろう」
秋が深まり、樺太は、もうかなり寒くなっていました。雨情さんは意気消沈してコルサコフの町に戻ってきました。ひとりトボトボと港を歩いていると、リンゴがうず高く大量に積まれているのを目撃します。
「兄さんや、これ買わねぇけ?新鮮なリンゴよ!安いぜ!」
値段を聞くと、今持っている僅かな金で、買える!雨情さんの野望が一挙に胸の底から湧き上がります。
「この安いリンゴを東京で売れば儲かる。」
りんごを一貨車分買っても、まだお金が余る値段だったのです。
「充分、帰りの交通費は確保できる。これで、再起を図ろう!」
「買う、買うでやんすよ!そのリンゴを一貨車分売ってくれ!」
雨情さん、一貨車分のリンゴを買い付けて、貨物船で東京に運ぶ算段をしました。
「これで一儲けして再起が図れる!」
雨情さんはリンゴを東京に送った後、大喜びで樺太を離れます。東京での成功を夢に見て。希望と野望で胸が膨らみます。
ついに雨情さんにチャンスは巡って参りました!
この続きは、次回に!
投稿者 tuesday : 2007年04月08日 |