古賀政男から美空ひばりまで昭和歌謡の名曲を慰問演奏。音楽ボランティアグループ“おもひでチューズデー”


































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童謡、民謡、そして昭和歌謡への流れ(131) 雨情さん、北海道に別れを告げ、東京へ!

明治42年8月に、雨情さんは、三ヶ月の拘置所暮らしを終えて、地獄の淵を見た思いで、娑婆に出てきましたが、室蘭胆振日報の主筆の職も無くなり、また仕事探しをしたのであります。雨情さんは、また新聞社で働くしかなく、旭川に赴き、北海旭新聞に就職したのであります。


それから2ケ月後、10月に入って、雨情さんを訪ねてきた男がおりました。その男は、雨情さんが北海道に来る前に参加していた早稲田詩社の相馬御風氏の紹介で、雨情さんを訪ねてきたと思われます。その男の名は、岩野泡鳴(1873-1920)であります。この泡鳴氏は、雨情さんと同様、新体詩に興味を持っており、その関係で御風氏と知り合っていたのであります。泡鳴氏は、詩や詩評論、さらには戯曲や小説も書いていた精力的な人でありまして、「神秘的半獣主義」という不可解な霊肉一致、刹那主義を提唱して、欲望の赴くままに女性と関係するというような生活をしておった人のようであります。


雨情さんは、泡鳴氏を自分の下宿に迎え、座布団を用意して、坐るように促しながら言いました。
「泡鳴さん、よぐ来てぐれました。いろんなこどにご活躍とのごど、御風さんから、かねがねお噂はお聞きしでおりました」
泡鳴氏は、ゆっくり座布団に腰を下ろすと、下宿部屋を見回しながら、気障な金色メガネに手を遣って、澄ました顔で言いました。
「野口さん、私はいろんなことをしたいのであります。詩作だけでは気持ちを抑えられないのであります。小説も書きたいし、戯曲もどんどん書きたい。美しい女性を見れば、これが一番気持ちが抑えられないのでありますな。実に女性はよいものであります」
「ほうほう、そうであっぺが?泡鳴さんは、実に頼もしい方でありますね!とごろで、わざわざ北海道さ、来られだのは、どういう用事があったんであっぺが?」


泡鳴氏は、今度は口髭に手を遣りながら言いました。
「北海道を訪れたのは、事業を興すためであります。樺太に蟹の缶詰工場を作ろうと思っておりまして、これで金儲けをしてみようと考えております」
「わすも、樺太さ行ったごどがあります。そしで、わすもそごで金儲けを考えだごどがありました。わすは、あるっきりのお金で、樺太のリンゴを買占めましで、東京に送ったんでありますが、みんな腐っておりました。大失敗をしたでやんす。わすは、事業さは向かないでやんす」
泡鳴氏は、雨情さんの失敗談を聴いて、一瞬動揺したようでしたが、メガネに手を遣って気障さを維持しておりました。
「そうですか。一攫千金とは、そういうものですよ。でも、成功すると信じていなくては何もできません。私は気持ちを抑えられないことは、とことんやり遂げるのですよ」
雨情さんは、泡鳴氏を見ながら、自分よりも遥かにスケールが違う様に感じていました。
「そうでやんすか、そうでやんすか」


泡鳴氏は、雨情さんに向かって真顔で言いました。
「野口さん、御風さんが心配しておられたのですが、貴君は東京に戻られないのですか?詩作を忘れられたのですか?詩壇に興味はないのですか?」
雨情さんは、薄笑いをしながら、黙っているだけでありましたが、拘置所に入れられたという体験が尾を引いていたのか、この時の雨情さんの心は北海道から離れようとしていたかもしれませんな。


その年の暮れに、雨情さんは、旭川を去り、貨物船で海路を横浜に向かっていたのでありました。貨物船でというのは、懐が寂しかったからであります。啄木さんが乗った船も貨物船でした。あの時の啄木さんの心境よりも雨情さんの方が遥かに侘しかったように思われます。


雨情さんは無一文同然であったため、横浜には茨城磯原から奥さんのヒロさんが迎えに来てくれてました。横浜から東京を経由して磯原までの汽車の中で、雨情さんとヒロさんは、どんな会話を交わしたのでありましょう?


♪この~坂~を♪ 越えたなら~♪
♪しあ~わせが~♪ 待っ~ている~♪
♪そんなことば~を~♪ 信じて~♪
♪越えた七坂~♪ 四十路坂~♪
♪い~い~の~♪ いいのよ~♪
♪あなたと~♪ ふた~り~♪
♪冬の~木枯らし♪ 笑顔で~耐えりゃ♪
♪春の~陽も射す~♪ 夫婦~坂~♪


都はるみが唄った「夫婦坂」(作詞:星野哲郎、作曲:市川昭介、コロムビア、昭和59年9月発売)のように、夫婦はお互いを支え労り生きていくものでありますが、雨情さんの心は、ヒロさんによって癒されたのでありましょうか?



投稿者 tuesday : 2011年02月11日


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